小売業におけるグループ会計の活用と展開
イオン、セブン&アイの2強を取り巻く地方小売グループ企業
グループ再編必至の業界に求められる「筋肉質な」基幹業務システムとは?
小売業界は、セブン&アイグループ、イオングループの2強の様相を呈している。だが、小売市場全体でみれば両社がシェアを独占しているわけではない。とりわけスーパーマーケットやドラッグストアは地域性が強く、地場の企業が群雄割拠する業界といわれてきた。しかしここ数年は業界再編の動きが活発に進んでおり、企業・グループの統廃合のスピードは早まっている状況だ。
目次
グループ再編必至の小売業界、地方スーパーが合従連衡する背景とは
スーパーマーケットやドラッグストアなどの企業・グループの統廃合が激しさを増している。小売グループ企業の再編、他の業界に比べて遅いといわれていたものの、最近では、市場縮小、競争激化によるコスト削減のため、企業規模を求めた経営統合や提携が加速してきた。
【地方小売企業の主なグループ再編】
2005年5月 | 平和堂(滋賀県)がヤナゲン(岐阜県)を100%子会社化 |
2012年9月 | アークス(北海道)がジョイス(岩手県)を子会社化 |
2013年10月 | 原信ナルスHD(新潟県)とフレッセイHD(群馬県)が経営統合。「アクシアル リテイリング」に改称 |
2014年9月 | アークス(北海道)がベルプラス(岩手県)を子会社化 |
2014年10月 | マルエツ(東京都)、カスミ(茨城県)、マックスバリュ関東(東京都)が経営統合し、ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングスに |
2015年9月 | イズミ(広島)がユアーズ(広島県)を連結子会社化 |
2015年10月 | バローホールディングス(岐阜県)が持株会社体制に移行(商圏エリアや周辺部の中堅中小スーパーを傘下に入れる) |
「グループ再編の背景には、『単体でのコスト削減の限界』『少子高齢化に伴う商圏の変化・縮小』『異業種競争の激化』などがある」と語るのは、NTTデータ コンサルティング&マーケティング事業部 ビズインテグラル統括部 課長 荻野 陽介氏だ。
「スーパーマーケットの再編の特徴は、同業間で横に組織を広げる“横展開”にあります。記憶に新しいところでは、北海道の『アークス』と岩手の『ベルプラス』の統合や、首都圏の『マルエツ』『カスミ』『マックスバリュ』が合併して生まれた『ユナイテッド・スーパーマーケット・ホールディングス』などがあり、全国各地で同様のケースが見られます」(荻野氏)
こうした急速な小売グループ企業の横展開が行われた結果、店舗が増えたものの、それと同時に本社機能が肥大化し、業務の重複化や基幹システムの肥大・複雑化といった課題が顕在化しているのだ。
「売上増加に直結するフロント側のシステムも複雑化しています。店舗、EC、スマホアプリ、店頭端末など顧客との接点が多様化し、現金、クレジット、ギフトカードやポイントカード、最近ではインバウンド向けの『銀聯カード』『新韓カード』への対応など、決済手段も多様化しています。さらにECで購入した商品の店舗取置きやギフト、季節商品の予約など、多様化する顧客サービスにフロント側のシステムを素早く対応させていかなければならないという課題があります」(荻野氏)
このように、今後ますます多様化する顧客ニーズに応えるためには、本社機能のスリム化が必要になる。具体的には、複雑化する基幹業務システムを効率的に連携させ、システムが一本化された状態にすることだ。
「統合・提携により企業規模が拡大したものの、ますます複雑化したシステムがネックとなり、肝心の顧客サービスがタイムリーに実現できない。管理粒度や業務がバラバラで規模のメリットが発揮できない、といった課題に直面する小売グループ企業は多いです。本来は、会計システムをはじめとしたバックエンド側の“守り”のシステムはできるだけ一本化して『筋肉質』なシステムを目指し、フロント側の“攻め”のシステムに経営資源を投下できるようにしていくことが欠かせません」(荻野氏)
異なる企業間の再編で課題となるのがシステム面、とくに会計をはじめとするバックエンド系のシステムとフロント系システムの連携だ。小売グループ企業の本社機能をスリム化し、競争力を高めるグループ会計システムの選定や活用のポイントを考えてみよう。
「Biz∫会計」と、高機能EAIツール「Biz ∫ ASTERIA」によるグループ会計導入のメリット
小売グループ企業はバックエンド系のシステムについてどんな課題を抱えているのだろうか。NTTデータビズインテグラル 開発本部長 真瀬 陽子氏は以下のように語る。
「バックエンド系のシステム更改を考える小売グループ企業のお客様は二極化しています。一つは、ホスト時代から使っているレガシーシステムが老朽化したというお客様。もう一つは、ERPパッケージなどを導入したものの、サービスの多様化や組織の規模が拡大していく中で、サブシステムが多くなりシステム全体が複雑化してしまったというお客様です」(真瀬氏)
とくに、後者の場合は、顧客サービスや事業の統廃合時に、会計システムや販売管理システムなどの機能を「つぎはぎ」で拡張していることが多く、事業の拡大に伴い、システムの改修に膨大なコストや時間を要する問題がある。
「グループが統合して、新しい事業を行うシステムだけを追加したいと思っても、会計システムを大規模に改修しなければならないなど大変難しい問題に直面されるお客様もいらっしゃいます」(真瀬氏)
こうした場合には、小売グループ企業に強いグループ会計パッケージを導入するのが一つの手だ。真瀬氏は「よく、『会計システムを統合して、業績にどう寄与するのか』と聞かれることがあるのですが、フロントシステムの強化のためにメリットがあると説明します。グループ会計導入によって、グループ全体で諸経費を『見える化』できるからです」と語る。
NTTデータのERPパッケージ「Biz∫」(ビズインテグラル)の製品群の一つ「Biz∫会計」は、グループ会計の機能や使い勝手に強みがある。とくに、マルチテナントで利用可能な点が、グループ各社での利用を考える小売グループから高い支持を得ている。Biz∫会計により、資材や用度品、什器、固定資産など、グループ統合により肥大化した経費科目の統一と管理レベルを統一することができる。
「Biz∫会計は、情報系と基幹系のフレームワークを備え、コード体系の管理やクレンジングを標準機能で行うことができます。勘定科目や補助科目、分析コードなどのマスタが統一され、グループ全体の経費の分析精度がより向上します」(真瀬氏)
筋肉質への道 STEP1
グループ会計を導入し、諸経費を見える化
グループ全体で経費を「見える化」できれば、たとえば、光熱費や、清掃、警備などの外注費の一括契約、用度品などの仕入先集約を親会社主導で行うことで、より高いコスト削減効果が期待できる。
「さらに、EAIツール『Biz ∫ ASTERIA』やマスタ統合管理パッケージ『Biz ∫ MDM』を用いれば、グループ各社のMD(販売管理)、店舗管理など、既存の業務システムに手を加えることなく、マスタの統一を実現することが可能です。仮にグループ全体の年間経費を1%削減できれば、十分システム更改の費用対効果は見えてくるのではないでしょうか」(真瀬氏)
筋肉質への道 STEP2
MDMを利用した仕入先の集約・契約の適正化
会計システムのスリム化は、人的資源の再配置にも貢献が可能
上述の通り、会計システム更改のメリットは、グループ全体の継続的な経費節減が可能になる点にある。小売グループ企業の年間経費は売上の8〜10%程度といわれる。仮に、売上規模が3000億円という小売グループ企業があったとすると、年間経費は約250億円から300億円ということになる。この1%を削減できれば、経費削減効果は2.5億円から3億円となり、これを何年にもわたって継続していくPDCAサイクルが確立できれば、「フロント側のシステム強化の原資確保につなげることも十分可能」(荻野氏)ということになる。
荻野氏が重要性を強調するのが、フロント側の“攻め”のシステム強化のための「守りのPDCAサイクル確立」だ。
「BIツールによる経費の予実管理により、守りのPDCAサイクルを確立することが可能です。Biz∫には、BIソリューションがあり、経費予算に対する実績進捗を、分析科目単位にグループ各社、店舗、部門で日次・月次で管理することが可能です」(荻野氏)
筋肉質への道 STEP3
科目・分析コードを利用した諸経費の予実管理(PDCA)
さらに、筋肉質な「本社機能のスリム化」はこれで終わらない。荻野氏は、最終的にはBPO(ビジネスプロセスアウトソーシング)等を活用した「人財の最適配置」というポイントを挙げる。
筋肉質への道 STEP4
シェアードサービスを活用した人財の最適配置(売るための仕事へ)
「親会社の組織やシステムがスリム化され、業務が標準化されれば、本社業務をアウトソーシングし、重要な経営原資である人財を適材適所で配置していくことができます。小売業界の現場は今、深刻な人財難に直面しています。グループ会計システム導入によるバックエンドのスリム化は、人的資源の再配置にも貢献できると考えています」(荻野氏)
グループ企業の再編は小売業界に限ったことではない。グループ力の発揮に課題を抱える経営層や情報システム担当者はスリムで筋肉質な企業を目指すためのグループ会計システムを検討すべきではないだろうか。