多種多様な船種に対応する技術力を持つ内海造船 ~基幹システムを受注生産型製造業向け「Biz∫Project-Space」に更新~
目次
内海造船を支えるきめ細かな建造技術
長い歴史を誇る内海造船様ですが、設立からの社歴をお話しいただけますか。
原様
前身の瀬戸田造船株式会社としての設立が1944年11月22日です。それ以前からも、瀬戸田船渠[せんきょ]という名で事業を行っていたとの記録もありますが、その日が商法上での設立日となり、現在の瀬戸田工場が発祥の地となります。1972年10月に瀬戸田造船株式会社と田熊造船株式会社が合併して内海造船株式会社に商号を変更しました。その後、2005年1月に株式会社ニチゾウアイエムシーと合併して因島工場が加わりました。
取締役社長 原 耕作 様
内海造船様が目指す造船業とはどのようなものになりますか。
原様
造船業と一口に言っても会社ごとにポリシーや特徴があります。同じような船を大量に建造することで効率や生産性を追求し収益を上げている会社と、多種多様な船を建造することで存在感を示す会社がありますが、当社は後者で、これまでも顧客ニーズに合わせたきめ細かな船の建造を続けており、これからも私たちが目指す方向だと考えています。例えば、タンカーや貨物船などの外航船は、複数ロットで発注されることが多く、スエズ運河やパナマ運河を通航できる船の最大サイズである、スエズマックスやパナマックスという設計要素があります。この最大船幅に合わせた船の設計図を作れば、その図面を流用することで同型や類似の船を効率的に数多く建造できます。中国や韓国の造船業に多く見られるビジネスモデルです。当社でもそのような船も建造しますが、それに加えてフェリーや自動車運搬船といった一船ごとに仕様が異なり細かい対応が求められる船種の建造を得意としています。国内のフェリーなどでは、当社をご指名いただいているお客さまも多数あります。
内海造船様の独自性を強みとされているのですね。
井戸垣様
自動車運搬船は貨物倉が何層にも分かれていたり、フェリーはお客さまの嗜好、航路や旅客定員数などで船のサイズや構造が異なっていたりするため、それぞれの船に個別設計が求められ、設計技術の高さに加え多くの建造技術や品質管理が求められます。具体的には船体重量を契約で定めた範囲内で建造する技術、相反する要素である燃費の向上と契約船速の両立、船の内部には薄い鋼板も使いますが、ゆがみやすいなどの性質があるため高い難度の加工技術が必要です。フェリーや自動車運搬船は、建造が難しい上に5隻あるいは10隻などのロットによる発注ではありませんので、量産により効率を求める造船会社は、タンカーや貨物船が中心になっていきます。
ただ、島国である日本にとって、人や物を運ぶフェリーは今後も欠かせません。今、存在する航路の船は、将来、人口が減少したとしても何らかの形で残るでしょうし、その代替船が10年、15年単位で必要になってきます。経営効率は良くないかもしれませんが、そういう需要に応えていくことで、当社の独自性を出していきたいと思います。現在、中・小型のフェリーに関する建造実績は日本一だと思いますが、いずれはフェリー全体で一番になりたいですね。
井戸垣 篤広 様
フェリーなどの船の他に、需要の変化もあるのでしょうか。
井戸垣様
最近では、RO-RO(ロール・オン/ロール・オフ)船の需要が増えています。RO-RO船とはトレーラーの運転席を切り離し「荷台とコンテナのみ」を海上輸送するための船舶でクレーンなどを使わずにトレーラー自らが積み下ろしを行えるため、手間や時間が削減できることが大きなメリットとなります。
RO-RO船の増加は、長距離トラック運転手の減少が背景にあります。これまでは、すべてトラックでの陸送だったのを、海路ではトレーラーの荷台部分だけを運び、それぞれの港から陸送する物流スタイルの需要が高まっています。そのため、新規航路のための建造もありますし、同じ航路の船をより大きくするとともに燃費を向上させたいというニーズも増えています。今後、期待したい分野です。
安全と省エネでシップ・オブ・ザ・イヤーを受賞
2017年にシップ・オブ・ザ・イヤーを受賞されたと伺いました。おめでとうございます。
原様
トヨフジ海運株式会社様から発注を受け、当社が建造した自動車運搬船の「TRANS HARMONY 1」が、公益社団法人日本船舶海洋工学会が主催するシップ・オブ・ザ・イヤー2017の大型貨物船部門賞を受賞しました。この賞は、日本で建造された船舶の中から、技術的・芸術的・社会的に優れた船を選考して与えられるもので、2017年で28回目の開催となりました。
TRANS HARMONY 1は、”地球環境と人への調和”をコンセプトに、船員安否確認システムや赤外線暗視カメラなどを搭載した業界トップクラスの安全性と、風圧抵抗低減船型や当社特許技術の省エネ装置「ステップ」など各種省エネ技術を採用することで燃費を約17%(輸送1台当たりCO2排出量を52%低減)改善し、独自の艙内照明や断熱塗料の採用により現場目線で人にやさしい作業・居住環境を実現したことが評価されました。
大型貨物部門賞を受賞した
「TRANS HARMONY 1」(船主:
トヨフジ海運株式会社様)
船の世界でも、環境対応と省エネは注目されているのでしょうか。
原様
造船業界は、精密機械やITのように日進月歩で技術革新が急速に進んでいる業界とは異なり、ほぼ成熟した業界であるため、他の船と差別化をする上では省エネや環境への配慮がキーワードとなります。これらは造船会社にとって永遠のテーマであり、これからも追求していくことになると思います。また、日本は、ものの輸出・輸入の90%以上(重量ベース)を海上輸送に頼りますが、なかなか注目されず、就職希望者の少ないことが船に関わっている人々のもどかしさだと思います。海に囲まれて、船が大切だと分かっていても、皆さまに意識されることが少ないので、特に就職活動中の学生には省エネや環境性能にとどまらず船の重要性もアピールしていきたいと思います。
ソフトウエアは、完成しても実際に形として触れられるものではありません。船という形あるものが出来上がっていく様子を見届けられるのは、うらやましい限りです。
原様
造当社に就職を希望してこられる学生さんの中には、国内で運航するフェリーを建造して、家族や友だちを乗せたいとの志望動機を持つ人もいます。CMにもある”地図に残る仕事”とは違いますが、実際に人々の役に立つものづくりを実感できることは、この仕事の魅力の一つだと思います。
業界に特化したERPテンプレートのBiz∫Project-Space
この度の基幹業務システムの更新に当たって、ERPテンプレートであるBiz∫Project-Spaceをご採用いただきました。ご採用の経緯をお話しいただけますか。
井戸垣様
当社は、個別受注型企業のため、それに即した原価計算を中心としたシステムを使用していました。そのシステム自体が古くなっていたことと、グループ会社全体で使用していた基幹システムであったため、グループのシステムに対する方針が変わったこともあり、新たなシステムへの更新を決断しました。
システムの選定に当たって、導入ベンダーであるNTTデータエンジニアリングシステムズ(以下、NDES)は旧システムの導入から運用まで担当していたため、造船業特有の業務を全て理解してもらっていました。当社の業務の流れをしっかりと把握しているNDESであればスムーズに開発できると判断して、お願いしたというのが一番の理由です。2017年4月に新システムの開発をスタートして、2018年10月から新システムに切り換えを行い稼働しています。
今回ご導入いただいたBiz∫Project-Spaceは、個別受注型企業特有の機能をテンプレートとして構築しており、プロジェクト番号単位での損益管理、原価配賦機能、工事進行基準での売上計上機能などの機能がありますが、内海造船様として業務に合っていた機能をお伺いできますか。
井戸垣様
当社では、工事進行基準に応じた決算を行っていますので、造船業に限らず長期間の工事を業務にしている企業には合っていると思います。当社の工事進行基準とは、一般的な工事完成基準と異なり発生した原価の比率で期ごとに分散して売り上げを計上することです。旧システムでは、当月の発生原価を確認した上で当月の売上高を手計算して入力していました。今回のシステムでは、発生原価から売上高を自動計算してくれるため手間が減り、また計算ミスが生じる可能性も無くなりました。
原様
当社の取引先には海外のお客さまもたくさんいるため、外貨建てでの処理機能も当社に合っていました。社内の予定レートや邦貨建てと外貨建ての計算を自動的にできる機能がありますので、造船業界では必要な機能だと思います。
他にも業務に合っていた機能がありますか。
井戸垣様
原価の配賦機能ですね。船を建造するには溶接でガスを使いますが、そのガスの原価を工事ごとに配賦しなければなりません。当社では、各作業員の作業時間を配賦基準として、それぞれの工事にガスの原価を自動で配賦する機能が追加して必要となりました。
その他にも、取引先には大手から中小企業までいろいろな会社があって、支払い方法も違います。小さな会社であれば下請法に合わせた支払日の設定が必要となりますし、同じ会社への支払いでも、外注費と材料費では支払い条件が変わってくるというかなり複雑な処理にも対応しており、大いに助かっています。
造船業は、取引先も多く業務が複雑になるので、それをシステムに盛り込んで自動化することは大切ですね。画面入力では、通常の画面入力の機能だけでなく、Excelデータから取り込める機能を持っていますが、使い勝手はいかがですか。
蓼原様
伝票入力をExcelデータから取り込める機能は、ずいぶん役に立っています。例えば、費用計上する部門がたくさんある時、今までは伝票をすべて画面に手入力をしていましたが、Excelデータを読み込むだけで済ませられるようになりました。先日もちょっとした間違いで、大量の伝票の修正が必要となり、手入力だと期限に間に合わない状況だったのですが、この機能を使うことでスムーズに修正ができました。
情報管理課
蓼原 聡 様
苦労はあったが、うまくいったプロジェクト
今回のシステム更新に当たって、NDESの対応はいかがでしたか。
井戸垣様
プロジェクト期間中の管理手法には感心しました。こちらからの要求や現状の課題に対して、解決方法を提示するとともに、今どこまで進んでいるかが一目で分かるように、グラフ化したリポートを毎週の進捗会議で作成してくれました。さすがシステム開発をされている会社はすごいなと思いましたね。
ありがとうございます。グラフ化の目的はあくまでもお客さまとのコミュニケーションであって、要求したことに対してどう対応しているかがお客さまの一番気になることだと思います。プロジェクトの進捗状況は、社内で閉じることなくお客さまと共有できるよう、進行管理の「見える化」については徹底させていました。
中村様
毎週、進捗リポートを作成するのは大変だろうなと思いましたが、NDESのプロジェクトマネージャーがしっかり対応してくれたおかげで、簡単に状況把握ができ、安心してプロジェクトを進められました。
当然、御社の皆さまのご苦労もたくさんあったと思いますが、それをお聞かせください。
中村様
スケジュールの調整には大変苦労しました。NDESとの打ち合わせスケジュールを組む段階で、各部門からこの時間はダメあの時間はダメと要望が上がります。ただ、そのすべてを取り入れるわけにはいかないので、お互いに辛抱できるところはしてもらうという調整が大変でした。
蓼原様
スケジュール調整だけでなく、各部門の意見調整も大変でした。旧システムを長年使用して慣れ親しんでいたため、旧システムを再現してほしいという要望が大変多かったです。NDESには、旧システムと新システムの入力イメージが変わらないように依頼して、新システムを使用する担当者の負担にならないように対応していただきました。他にも、新システムのプログラムが完成した後の各部門への画面や仕様確認の了承を得る作業などにも手間がかかりました。
情報管理課長
中村 明代 様
調整役でもあった皆さまには、数ある要望の中から本当に必要かどうかを判断して、不要であればばっさりと切っていただけたので、スケジュールが守れたと思います。
井戸垣様
どのような要望であっても実現してくださるのは分かっていたのですが、あれもこれもとなると、時間や開発費用が限りなく増加していきます。便利だと思う機能でも、どのくらい使うのかという観点から、本当に必要かどうかを見極めていきました。めったに使用しない機能であれば、多少は担当者の手間が残るとしても、諦めるという判断から要望を減らしていったのです。
原様
社内へ最初にお願いしたのは、「システムが変わるのだから戸惑いはあるかもしれないが、慣れることで解決する機能については我慢をしてほしい」ということでした。ただ、「今よりも不便になったり、劣る機能があったりすれば、NDESにお願いして徹底的に改善してもらってください」と周知しました。そういう点では、予想したほどの不満も上がってきていないですし、うまくいったのかなと感謝しています。
月次決算締めの作業も効率化されたそうですが、実感はありますか。
井戸垣様
これまでは、月1回の決算時に月次処理を行うためのバッチ処理を実行してからでないと結果を得られなかったのですが、Biz∫Project-Spaceでは、簡単かつ即時に仮締めができるので確認作業が効率化できました。これは便利ですね。
蓼原様
旧システムでは月次処理の実行を全てNDESにお願いをしていたのですが、新システムでは、ジョブ管理ツールを使用して、当社でバッチ処理が実行できるシステムとなっています。旧システムでは、月次処理で再処理が必要となった時、NDESへ依頼をする必要があったため、申請の手続きなどを含めると何時間もかかっていたのが、新システムでは、経理が承認すれば当社ですぐに月次処理を実行できるので大変早くなりました。
中村様
決算時に休日が絡むと、NDESの担当者の携帯電話に連絡して対応をお願いしなければならず、お互いに大変でしたが、今は自分たちのタイミングで処理を実行できるようになって助かっています。
今後、期待すること
今後、Biz∫Project-Spaceは、お客さまからの声を開発に生かしたバージョンアップを行い、造船業界に適したより広い業務をカバーできる標準機能の拡充に取り組んでいきたいと考えていますが、NDESとBiz∫Project-Spaceに対して、要望することや期待することがあればお聞かせください。
井戸垣様
次のステップとして、他のシステムも統合できればと思っています。今回は時間の都合でシステム化できなかったのですが、現在、調達や勤怠などを別の周辺システムとして運用しており、Biz∫Project-Spaceにはインターフェースを使用してデータ連係をしています。これを一気通貫でまとめることができればさらに効率化できると考えています。そのためには、現在の周辺システムの中身を理解いただき、アドバイスをもらいながら、一番良い方法で実現できればと思います。
蓼原様
今回のプロジェクトでは、最初の要件定義から参画することができ、新基幹システムの全体を理解できたかなと思います。ただ、現時点では新システムの運用を開始できただけの状況だと考えており、今後は、Biz∫Project-Spaceの便利なところ、例えば、ViewCreatorというデータをダウンロードするような機能をもっと活用できるようにしたいので、サポートをいただければと思います。
中村様
今は順調に稼働していますが、システムは生き物ですから、ここで止まるのではなく、進化していかなければいけないと思いますので、今後ともご協力をお願いします。
原様
今回、システム開発はいったん完成しましたが、これからも改善に関わる情報があればぜひ教えていただいて、さらにシステムを発展させていきたいと思っていますので、よろしくお願いします。
ERPテンプレートであるBiz∫Project-Spaceは、NTTデータグループで開発したintra-martとBiz∫という製品上に構築しているため、柔軟なシステム構成となっております。今後もこのメリットを生かし、システム統合のご提案やサポートをさせていただきたいと考えております。また、定期的に意見交換の機会を持ち、新しい機能やトレンドについての情報共有をして、内海造船様の基幹システムのさらなるブラッシュアップにつなげられたらと考えています。本日はお忙しいところ、ありがとうございました。
会社概要
会社名 | 内海造船株式会社 |
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所在地 | 広島県尾道市瀬戸田町沢226-6 |
設立 | 1944年11月22日 |
資本金 | 1,200百万円 |
事業内容 | 新造船事業:顧客ニーズに基づいた受注生産で中型船を建造。船種はコンテナ船、プロダクトタンカー、自動車運搬船、バルクキャリア、ケミカルタンカー、貨物船、旅客フェリー、調査船など。 改修船事業:各種船舶、艦艇の修理・改造。 |
関係会社 | 内海エンジニアリング株式会社 |
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